鎌倉、まぼろしの風景。242

「織姫星と鎌倉」銀の鈴社で通信販売中です。
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リーフレット「星月夜の鎌倉と塔の辻」の続きです。星に関する事を順序立てて再構成しました。新しい話題もあります。読んでいただけたら幸いです。
鎌倉の銀の鈴社ギャラリーとJR鎌倉駅東口の松林堂さんでご覧いただけます。

242.緑の洞門と北鎌倉の星の景観

　間違いを書き直しました。6 Dec. 2014

　大きな書店で売っている国土地理院の１万分の１地形図「大船」と「鎌倉」を繋げて、山頂から線を引いてみる。するとそこには、北鎌倉に立って星を見ていた奈良時代の人の姿が見えて来る。
　用意するものは地形図２枚と分度器と定規。鉛筆。

１）　北鎌倉の円覚寺は、地形図の「大船」にのっている。右下に円覚寺がある。地図の記号で言えばＪ10からＪ11だ。円覚寺の山門から仏殿、方丈まで、一直線に連なっている線を定規でなぞって線を引いてみる。その線を右上に、北東に延ばすと、六国見山の山頂147.31mに当たる。ぴったりだ。
２）　この線の方位を分度器で測ってみる。東が90度、南が180度とすれば、六国見山の山頂から伸びるこの線は240度になる。逆に山門から方丈の方へ、線に沿って見上げると、
240-180=60
　東から30度北に寄ると60度だ。夏至の太陽がこの方角から昇る。鎌倉時代に北条時宗は夏至の太陽を六国見山から昇らせようと、円覚寺を設計したのだ。谷戸に沿って円覚寺を作ったのではない。線に沿って谷戸を広げたのだ。

GoogleMapにSkitchで作図

３）　六国見山の山頂から西へ、左へ、真っ直ぐに線を引くと、不思議な山頂に着く。そこを「道の先」と名付けてみる。六国見山から引かれた線は115mの山頂の北側を通り、大きく山を削り取った北に向う谷を横切って「道の先」に至る。白雲庵の隣の雲頂庵から登る山道が、青い破線で描かれていて、その道が「道の先」で、途切れている。ここまで登って来る人が居たのだ。ここで星を見る人がいたのだ。
４）　拙著「織姫星と鎌倉」の星図１をあてはめてみる。
　153度に将軍星（彦星）が来ると、または220度に天王星が来ると、織姫星（天之御中主）が天頂に来ている。それが星図１だ。
　「道の先」から220度の線を引くと、緑の洞門に沿って十王堂跡に向う。そこから瓜が谷の南西の山ノ内配水池の山頂に至る。その先は鎌倉山神社の裏山だ。119.38m。鎌倉山の最高峰である。扇湖山荘の庭の山頂でもある。
参照：216.扇湖山荘と星
　153度の線は明月川に掛る橋を渡り、旧巨福呂坂をなぞって鶴岡八幡宮の舞殿の南を通る。鎌倉時代に鶴岡八幡宮本殿があったと推定されるあたりだ。
　その先は東勝寺跡。これだけ離れれば、山を越えたむこう側も見えたのだろう。「道の先」から東勝寺の灯が見えたと思う。東勝寺の位置に灯る明かりの先に将軍星が来ると、織姫星が天頂に上がっている。東勝寺が出来る前は、そこになにがあっただろうか。

GoogleMapにSkitchで作図

５）　「織姫星と鎌倉」の星図２をあてはめてみる。
　297度に織姫星が来ると、あるいは255度に将軍星（彦星）が来ると、東にすばる星と高木星（アンドロメダ銀河）が来ている。
　それが星図２だ。
　297度を「道の先」から引くと玉縄城趾の最高峰、諏訪壇79.76mに至る。225度は山ノ内八雲神社から光照寺を通って中央公園のしし石に至る。しし石は窪地にあって「道の先」から見えないから、しし石に当たるのは偶然なのだろうか。八雲神社と光照寺の灯明が一直線になって彦星に並ぶ時に、東にある六国見山の上に、すばる星と高木星（アンドロメダ銀河）が来ているのだ。

６）　さらに。「織姫星と鎌倉」の星図４をあてはめてみる。「道の先」は実に不思議な場所だ。
　南に葉室星が来る時、あるいは214度に氷上星が来る時、天の川が地平線を取り巻く。この時、日光の輪王寺の摩多羅神の絵を参考にすれば、197度の向きを摩多羅神は見つめている。そして織姫星は54度にある。これが星図４だ。
　「道の先」の南に線を引くと、浄智寺に当たる。浄智寺の灯明の上に南十字星が輝いている。その先は武庫山、つまり源氏山の山頂だ。十拳の剣がさかしまに源氏山に立つ。スクナヒコナの神がここに祀られていたのかもしれない。
　214度の線を「道の先」から引くと、パン屋さんの小路に沿って線が延びて、山中稲荷に当たる。この神社の灯の上に氷上の星が来ると、天の川が円になっている。この時、雲頂庵の階段の下から参道の先を見上げると、雲頂庵の上に織姫星（天之御中主）が輝いている。参道の向きが54度なのだ。

山中稲荷に立って鳥居の向こうに直線道と「道の先」の辺りを見る。

　そして。驚くべき事に。197度の線を引く。線の先は摩多羅神が見つめている先。そこに鎌倉で一番古い神社、甘縄神社がある。
　そう、この数字はどれも奈良時代を基準にした数値だったのだ。鎌倉の由比ガ浜に屋敷を構えた染屋太郎太夫時忠は長屋王の死の前年に死んでいるとされている。長屋王の死後も生きていたと言う説もある。甘縄神社にあったと言う彼の位牌は長屋王の死の前年を記していたと言う。「彼と長屋王の死は関係がない」と言いたいのだろうか。そして六国見山には彼の子供の墓、稚児塚が残っている。
　だから、「道の先」は、奈良時代の道観、星を祭る道教の教会があった場所なのかもしれない。そこに円覚寺を造ると決めて、その後に元寇が起こり、戦死者の弔いをするという理由を立てて円覚寺が完成する、その遥昔の円覚寺周辺の姿が、「道の先」や中山稲荷のパン屋さんの道など、地図上の線になって残っているのだろうと、思った。

　北鎌倉の星の景観は、まだ続きます。