鎌倉、まぼろしの風景。98 
鎌倉、まぼろしの風景。

          
     イメージの翼に乗って中世+近世鎌倉を妄想するページ。

星座早見盤と地形図を持って、鎌倉の地上の星座を探検中です。


横浜自然観察の森

:::::目次:::::

:::Top最新のページ:::

・・・地図上の直線
地図に線を引くとわかる設計
(ランドデザイン)

・・・地上の星座
天体の運行を取り入れた景観

:::1.天平の星の井19Apr:::
:::2.虚空蔵菩薩堂:::

3.霊仙山20Apr:::

:::4.飛竜の都市:::
:::5.分水嶺:::

6.道の意匠:::

:::7.修験道の現在形:::

:::8.鎌倉の白い岩:::

:::9.セキサンガヤツ:::

10.若宮大路のカレンダー:::

11.神奈川県の鷹取山:::

12.鎌倉の正三角形:::

:::13.鎌倉の名の由来:::
:::14.今泉という玄武:::

:::15.夜光る山:::

:::16.下りてくる旅人:::

:::17.円覚寺瑞鹿山の端:::

:::18.鎌倉の獅子(1):::
:::19.望夫石(2):::
:::20.大姫の戦い(3):::

21.熊野神社の謎:::
22.熊野神社+しし石:::

23.北鎌倉の地上の昴:::

24.ふるさとの北斗七星:::

25.労働条件と破軍星:::

26.北条屋敷跡の南斗六星:::

:::27.星と鎌と騎馬民 :::

28.江の島から見る北斗と昴 :::
29.由比ケ浜から見る冬の星 :::

:::30.鎌倉の謎(ひと休み) :::

31.御嶽神社の謎:::

32.塔の辻の伝説(1) :::
33.昇竜の都市鎌倉(2):::
34.改竄された星の地図(3):::
35.すばる遠望(小休)(4):::

36.長谷観音レイライン:::

37.星座早見盤と金沢文庫:::

38.鎌倉の墓所と鎮魂:::

39.ふるさとは出雲:::

40.義経の弔い:::

41.「塔の辻」の続き:::

42.子の神社:::

:::43.松のある鎌倉(1):::
:::44.星座早見盤と七賢人(2):::
:::45.山崎の里(3):::
:::46.おとうさまの谷戸(4):::
:::47.将軍のいましめ(5)井関隆子:::

:::48.ふたつあることについて:::

:::49.万葉集の大船幻影(休憩):::

:::50.たたり石:::

:::51.鎌倉の十三塚:::

52.陰陽師のお仕事:::

53.坂東平氏の大三角形と星:::
54.大船でみつけた平将門:::

55.神津島と真鶴:::

56.鷹取山のタカ
(八王子市と鎌倉市)
:::
57.鷹取山のタカ2(鷹の死):::
58.鷹取山のタカ3(宝積寺):::

:::59.岩瀬、伝説が生まれた所:::

60.重なり合う四神:::

:::61.洲崎神社:::
:::62.語らない鎌倉:::

:::63.吾妻社:::

64.約束の地(小休):::

65.若宮大路の傾き(星の都1):::
66.國常立尊(星の都2):::
67.台の天文台(星の都3):::

68.鎌倉の摩多羅神:::

69.地軸の神(星の道1):::
+++おわびと訂正+++
70.鎌倉と姫路(星の道2):::
71.頼朝以前の鎌倉(星の道3):::

72.環状列石のしくみ
(五芒星1)
:::
73.環状列石の使い方
(五芒星2)
:::
74.関谷の縄文とスバル
(五芒星3)
:::

75.十二所神社のウサギ:::

:::76.針摺橋:::

77.平安時代のジオラマ:::

78.獅子巌の四神
(藤原氏の鎌倉)
:::

79.亀石によせる:::

80.山頂の古墳:::

:::81.長尾道路の碑
(横浜市戸塚区)
:::

82.柏尾川 天平の大船幻想1 :::
83.玉縄 天平の大船幻想2 :::
84.長屋王 天平の大船幻想3 :::
85.万葉集と七夕 天平の大船幻想4 :::
86.玉の輪荘 天平の大船幻想5 :::

:::87.実方塚の謎(1)
鎌倉郡小坂郷上倉田村
:::
:::88.戸塚町の謎(2)
鎌倉郡小坂郷戸塚町
:::
:::89.こぶた山と雀神社(3):::
:::90.雀神社の謎(4)
栃木県宇都宮市雀宮町
:::
:::91.実方紅雀伝説と銅(5)
茨城県古河市
:::

:::92.北鎌倉の悲劇:::

:::93.こぶた山と奈良東大寺:::

:::94.王の鳥ホトトギスとミソサザイ:::
:::95.悪龍と江の島:::

96.海軍さん通りの夕日:::

▲★97.今泉不動の謎:::
98.野七里:::
99.染谷時忠の屋敷跡:::

100.三ツ星とは何か
(またはアキラについて)
:::

:::48.ふたつあることについて:::
101.亀の子山と磐座、火山島:::
102.秦河勝の鎌倉:::
103.由比若宮(元八幡):::
104.北鎌倉八雲神社の山頂開発:::
105.北鎌倉 台の光通信:::
106.鎌倉の占星台:::
107.六壬式盤と星座早見盤:::
:::108.常楽寺 無熱池の伝説:::
:::131.稲荷神社の句碑:::
:::132.鎌倉に来た三千風:::
:::146.幻想の田谷 横浜市栄区田谷:::
150.鎌倉 五芒星都市:::
158.第六天社と安部清明碑:::
159.桜山の朱雀(逗子市):::
160.双子の二子山と寒川神社:::
:::161.ゴエモンの木:::
:::134.ここにあるとは 誰か知るらん:西郷四郎、会津と鎌倉:::
:::166.防空壕と遺跡(洞門山の開発):::

167.地上の銀河と星の王1(平塚市):::
168.地上に降りた星の王2
(鹿嶋神宮、香取神宮、息栖神社)
:::
174.南西214度の縄文風景(金井から星を見る):::

::: 175.おんめさま産女(うぶめ)伝説 (私説):::
176.おんめさまとカガセオ:::

177.南西214度の縄文風景 2
(大湯環状列石とカナイライン)
:::

178.御霊神社と鎌倉
(南西214度の縄文風景3)
:::

179.源頼朝の段葛とカガセオ
(南西214度の縄文風景4)
:::

::: 184.鎌倉の小倉百人一首:::

::: 185.鎌倉の小倉百人一首 2:::

:::156.せいしく橋の伝説:::
:::109.北谷山福泉寺の秘密:::
:::192.洞窟と湧水と天女:::
:::198.厳島神社の幟旗:::


資料集

きっかけ

はじめに

メール* 亀子
ブログ:鎌倉、まぼろしの風景(ブログ)


野七里          


 野七里とは、神奈川県横浜市栄区にある字名の
一つである。神戸橋からいたち川の支流へと分か
れて南に遡上すると、川の東斜面に等高線が広く
ゆるやかに広がる、野七里があった。
そこから更に南に、野七里ヶ谷がある。こちらは
鎌倉市との境界になっている通称鎌倉アルプスの
尾根に沿って、その北斜面に広がる地域である。
ここも等高線の幅が広くなっていて、鎌倉市の今泉
不動の北側から、現在のゴルフ場のレストハウスの
北斜面にかけて、ゆるやかな谷と岡の牧場の様にも
見える所だ。

 昭和28年の明細地図を見る。いたち川に沿って、
今の環状四号線の神戸橋から支流の上流へ向かう
と、野七里を通って野七里ヶ谷へ向かうことになる。
この支流は、今は分譲地になっていて、昭和38年の
まるで秘境の様な川筋は、もう存在しない。
野七里は住宅地に、野七里ヶ谷はゴルフ場になった。
でも、土地開発というのは必要以上に地形を壊さない。
コストを抑えるために、最小限で済む様に手を入れて
いるはずだ。だから分譲地に立ってみれば、かつての
野七里の、土地の高さがよくわかる。東西が川に削ら
れている山の上の台地だったのだ。
神戸橋から、今は無い川を紙面上で遡上してみよう。

 西へ向かう川は犬山を右手に見て大きく南に曲がる。
犬山(いのやま)とはもちろん、方位を表す山の名だと
思う。「戌 いぬ」なら10時の方向。「亥 い」
なら11時の方向だ。北西に在る山という意味だろう。
そうすると、どこから見て北西なのか、この地方の中心
地がわかってしまう。
明治14年の地図で、113mの山頂がいぬの方向に見
える線を引いてみる。旧白山神社、昇竜橋に当る。
亥の向きに見えるとすると、横浜自然観察の森。上郷
森の家の山頂、バーベキュー広場のあたりになる。
「自然観察の森」について語るとすれば、それはまた長
い話になりそうな、謎を秘めた地点なのだ。

川沿いはとても山深く、延々と続く川筋は秘境に入るよ
うに心細く感じられたはずだ。左右に在る切り立った崖
は、その道しるべになっていたかもしれない。磨崖仏が
あったかもしれないとも思う。
川の尽きた所が野七里ヶ谷。その先は山頂、今泉不動
と、天園である。

野七里ヶ谷は不思議な所だ。今はゴルフ場になっている
けれど、今も昔もあまり変わらない大きな特徴を持ってい
る。それは「見えない」ということだ。
いたち川の南は広い分譲地になっていて、野七里ヶ谷の
隣まで広がっている。その隣接する野七里第一公園に立
ってみても、ゴルフ場は見えないのだ。高い崖の向こう側
にあるからだ。ゴルフ場が見えない様に分譲地を低く作っ
たのかもしれない。それで神戸川のあたりまで戻って振り
返って見る。広がる分譲地の向こうに、やはりゴルフ場は
見えないのだ。
高い所に登ってみたらどうか。環状四号線の相武隧道の
近く、横浜自然観察の森にある森の家に行ってみる。
ここから見ると、山頂のゴルフ場のレストハウスが見える。
だけどそのゴルフコースは山に隠れて見えなかった。
 野七里ヶ谷は周囲の山に守られて、見えない野原であるら
しいのだ。ここを一望するには、今泉不動へ行くしかない。
その奥の院の山頂の2つのレストハウスから見るしか、
方法が無いらしいのだ。まるで、秘密の桃源郷である。

 源頼朝は妻の政子をともなって、今泉不動へお参りをした
そうだ。家族の気晴らしでもあるらしい。お寺には心地よい
お香の香りとお坊様の美声と、体中を揺るがす打楽器のライ
ブ演奏がある。奥様が参拝している間に、旦那様は野七里ヶ
谷へ出る。そこには新しく調教されたばかりの若駒が待ってい
て、さっそく試乗会が始まるのだ。なだらかな起伏の岡を疾走
する頼朝。ここは幕府の裏庭で、いったん山の尾根に登れば、
一度も沢に下りずに来てしまう。
 どこからも見えない、安全なプライベートな場所。軍馬の
牧でもある様に見える。

 それで我が家では、「野七里=頼朝の牧場」になってしま
った。明治の地図の等高線がそこだけ広いという、それだ
けの理由で、である。 

 さて、この野七里は頼朝が作ったものだろうか。鎌倉時代
のものだろうか。それも地図を眺めていればわかってしまう
ことだ。いたち川上流の、神戸橋のさらに上流、旧白山神社
跡地の、すばらしく美しい昇竜橋を渡ると、道はどんどん登っ
ていって、横浜自然観察の森を通り、やがて相武隧道の上に
出る。江の島を見ながら南下すれば、もうK倉霊園の谷に入る。
沢を下れば十二所だ。その先は杉本観音だ。聖武天皇が作っ
たというこの寺は、天平6年(734年)の鎌倉の賑わいの
中心がここであったと語っている。
 今たどった道は、そこだけ妙に谷が広く、なだらかな下り
坂で、人工的な地形に見えるのだ。今は霊園だから、その道は
見えないけれど、中央を流れる川に、かつての面影を見ること
ができる。

 鎌倉ゆかりの藤原鎌足の次男の不比等。その息子の四兄弟、
武智麻呂(むちまろ)、房前(ふささき)、宇合(うまかい)
麻呂(まろ)。彼らの時代に、鎌足の孫だという伝説の染屋
時忠は生きていた。
彼が横浜市栄区上郷の旧白山神社の南、長者久保の屋敷から
鎌倉市由比ガ浜の新居まで、馬で通っただろう道がここにある。
だから野七里は、奈良時代からあるのではないか。そしてその頃
は、鹿が放たれていたかもしれないとも思う。

 鹿と言えばたたら製鉄である。と、「鉄から読む日本の歴史」
窪田蔵郎著 講談社学芸文庫 に書いてある。
ふいごを作るのに、鹿皮が必要なのだそうだ。それだけではない。
鎧や刀、馬具にも革は必要なのだ。藤原氏が春日大社で鹿を大切
にしているのは、わけがあるのである。
我が庵は 都のたつみ 鹿ぞすむ 世をうぢ山と 人はいうなり 
喜撰法師(古今集 九八三)
という歌は、南東(巽 たつみ)の自然風を利用した製鉄所の近
くに住む法師の歌で、山の製鉄が始まる冬に、万一雨でも降っ
て雨漏りしたら、水蒸気爆発が起きるかもしれない、そんな不安
な所に、よく住んでいらっしゃいますね。という歌であるらしい。
製鉄所の所長さんだったのなら、しかたないことだけれど。

 もう一つ、「鹿と鳥の文化史」平林章仁著 白水社 という本に
鹿とは水辺の生き物である。と、書いてあった。
牛はよく池や川で泳ぐのだそうで、牛の仲間である鹿も、群れを
なして川を泳いだりするのだそうだ。そんな時に舟を出して、舟
の上から魚を射る様に、弓で鹿を射るのだそうだ。弓を構えて、
下向きに鹿を射る絵が、銅鐸に描かれているのを見た事がある。
弓と言うと空高く矢が飛んでいくイメージがあるけれど、破壊力
があるのは下向きに射る時である。山城の上から下の敵に向けて
射るのだ。そして走って逃げる鹿を射るのはとてもできないと思う
けれど、泳いでいる鹿を舟から射るのなら、なんとかなりそうだと
思う。だから「鹿は水辺でとれる」というわけだ。
それで野七里にも、鹿が遊ぶ水辺があったかもしれない。そして
それは案外今のゴルフ場の池の在る様子に似てなくもないなあと、
思ったりもする。

 野七里ヶ谷は染屋時忠の時代からあったのかもしれない。それが
後に、頼朝に見出されて、今泉不動を盛り立てるとともに、活用され
たのかもしれない。と、思った。
 ちなみに、いたち川の上流の相武隧道の入り口に在るバス停は、
「源氏ヶ岡」という。バス停に残されたその字名は、野七里ヶ谷の東
側あたりを言うらしいのだ。その名のいわれを私は知らないけれど、
鎌倉時代には、このあたりが源氏の重要な場所だったということも、
あったのかもしれない。

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  ***亀子***( 26 Jul. 2008-3 May 2012)
 
     

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