遠い遠い昔、いのししやサメを獲って食べてい
た人たちは、食べ残った骨を加工して釣針や縫針
を作った。そしてその白く光る獣の歯を見て、首
飾りを作った。大きな牙は獣の生命力、力の残照
のように見えたから。
　切っ先が皮膚に当たらない様に、鉤爪のように
尖った先端を外側に向けて、首飾りは作られた。
腕輪は作らなかった。手を動かすたびに、怪我を
しそうだったから。やがて赤や緑の美しい石を加
工するようになって、首飾りの歯は石に変えられ
た。それでもやはり牙の形をしていて、その先端
は丸く柔らかく作られたけれど、外に向かって突
き出している姿は同じだった。曲玉のネックレス。
　それは後に国の統治者の印になる。
アマテラスのネックレスは、八坂瓊之五百筒御統
(やさかにのいほつのみすまる)と言う。八咫の
鏡（やたのかがみ）と草薙の剣（くさなぎのつる
ぎ）とともに宝物とされ、御統（みすまる）とよ
ばれている。

　統る（すまる）とは集まる、一つになる、束ね
るという意味の古い言葉で、「枕草子」にも星の
名として出てくる。
　今はスバルを昴と書く。これは中国の書き方で、
「統」はなぜか、まったく使わなくなった。

　スバルは散開星団で、肉眼では６個の星が集ま
って見える。むつらぼし（六連星）ともいう。
　大きい四角を作る４つの星に、２つの星が付い
ている形なので、羽子板星とも呼ばれている。
羽子板の柄がちょっと曲がってへの字になってい
る。それはまるで曲玉の形の様でもある。

　沖縄の八重山の古い歌にすばる星の物語がある
そうだ。『天の主から国を治めよと言われてハイ
と答えたからスバルは天の真中を通る。農作をす
る時にはスバルを目当てにしよう。』という歌だ
そうだ。否と答えた北の七星は北に追いやられ、
南の七星は南の隅に追われたという。スバルは農
業の星でもあるのだ。
　日没後に竿を建てて、その高さにスバルが上が
ったら麦やソバを蒔くのだそうだ。スバルが種ま
きの目当てになるのは日本各地で知られていたら
しい。
参考：「星の方言集　日本の星」野尻抱影著
　          中央公論社

　いつの時代でも、すばるは美しく冬の空に輝く。
時代によって、様々なイメージを被されても、美
しい星である事に変わりはない。
　

     
　
　 ＊＊＊亀子＊＊＊（5 Aug.2007-30May2012)