塔の辻というのは、鎌倉市の街道沿いにあった
石塔のある交差点のことで、現在は由比ケ浜の、
笹目の通りに、わずかに残っている。鎌倉攬勝考
によると、応永23年　（1416) の上杉禅秀の乱の
時に、「塔の辻は敵篝を焼いて警固しけるとある
も此所なり」とある。今は無いのだけれど、円覚
寺から大倉までの要所に塔があったのだ。

　この塔を北斗の星座とし、西御門の奥の赤山を
北極星とすると、笹目の塔の辻は天の秋分点にな
っていた。
　　参照：32.塔の辻の伝説

　笹目の塔の辻から長谷観音にかけて、由比ケ浜
の地に、染谷太郎太夫時忠の伝承が残っている。
平安時代に由比の長者と呼ばれてここに住んだと
言う。それでこの地を長者久保というのだそうだ。
同じ長者窪という地名が横浜市栄区の長倉町に残
っている。由比の長者が由比ケ浜に移る前に住ん
でいた所なのだそうだ。ここは鎌倉時代には山ノ
内荘の一部になっていて、今でも鎌倉武士の伝承
が残っている場所だった。
　笹目の塔の辻から赤山へ、まっすぐに線を引く
と、この長倉町の昇竜橋にあたる。上之村鎮守白
山神社があったと言う参道だ。きっとここにも塔
があったに違いないと思った。ここが天の春分点
に相応するのだ。
　昇竜橋は明治30年頃に作られた横浜市最古の石
橋だそうだ。いまは長倉町小川アメニティという
公園の一部になっていて、酸化鉄が沈殿している
清流は自然な蛇行をしながら稲荷川、いたち川と
呼ばれて柏尾川にそそぐ。公園の案内板には、い
たち川のマスコットのタッチーが描かれていた。
鎌倉武士の出立ち川（いでたちがわ）よりも、�ﾀ
川（いたちがわ）の方がずっと今に似つかわしい。
ここで育つ子供達のふるさとの風景になっていた
のだった。

　春分点と秋分点を結ぶ地上の線に直角に、夏至
と冬至もみてみよう。赤山から北西に2.5km鎌倉
市大船に岡野観音堂はあった。由比の長者染屋太
郎太夫時忠が鷲にさらわれた娘のために建てた観
音堂だという伝承があった。ここもまた由比の長
者が語られている。ここから先の柏尾川河岸、今
の大船一丁目あたりが冬至。
　　参照：26.北条屋敷跡の南斗六星

　そして梶原景時邸跡、十二所の明王院のあたり
に、夏至がある。新編鎌倉志には頼朝の祈願所と
伝わる大行寺があったらしい場所だ。

　鎌倉の街を守るために、天文博士安倍晴明の末
裔達が鎌倉にまじないを仕掛けた。長者と言われ
た人でも不幸にあう。そういう、人々の共感を得
る話に乗せて塔の辻の仕掛けを守った。骨が落ち
た場所の塔なら誰も動かさないと思ったからだ。
それで彼らは天上の太帝子を、鎌倉の地上に据え
たのだ。それは日の神ではない星の神だ。これを
隠して源氏の末裔、徳川光圀は新編鎌倉志を作る。
　江戸時代に鎌倉詣はブームになって、鎌倉を潤
した。それはまさに、東国の鎌倉の志、であった
のだろうか。
　（これは地図と星座早見盤から見た私説です。）

　徳川光国の新編鎌倉志が仕掛けた何かは、もっ
と別の事のようだ。江戸時代の謎も、鎌倉には潜
んでいるようなのだ。

　

     
　
　 ＊＊＊亀子＊＊＊（7 Aug.2007-30May2012)