北極星は自分の位置を知るGPSだ。北極星の高さ
でその場所の北緯がわかる。
　参考：24.ふるさとの北斗七星

　その北極星の高度を、どうやって測っただろう。
簡単に、そして精密に、携帯し易い器具で、どう
やって、と、測量機器の図を見ながら考えていた。
そして思いついたのが、ヤジロベエだった。

数字の７のような形の、はじっこにフックがつい
ている天頂がまっすぐな物を、竿の上に引っ掛け
て置くと、ぶらんと柄が揺れて重心がとれる。
垂直に立てた竿と、斜めに傾いだ柄が交差する。
ちょうど長い傘を机の端に吊るしたみたいだ。
それでまっすぐな部分、つまり７の字の上の平ら
な所に目を合わせて、星の角度に合わせたら、竿
と柄の交点に印をつける。もし90度近い天頂の星
なら、柄の上の方に交点の印が来るし、地平線に
近い低い星なら、交点の印は柄の下の方になる。
柄は長い程いい。低い星の高度差もよく見て取れ
るというわけだ。どうだろう。

この用具は何というのだろうか。長い柄の先に７
の字が付いている。これは鎌だ。これを長柄鎌と
言うのだそうだ。

　長柄鎌は船にからむ藻を船上から刈るための鎌
なのだそうで、それを武器として馬上であやつっ
たのが鎌倉武士なのだという。その後に武道とし
て、薙鎌（なぎがま）とよばれて薙刀や槍といっ
しょに発展して、文明開化の時に衰退したのだそ
うだ。京の五条の橋の上で、弁慶が薙刀で牛若丸
に立ち向かった時に、背中に担いでいたのがこの
薙鎌だとおもう。古い武器なのだ。それで、これ
があれば、北極星の高度が測れる。南北にどれだ
け動いたか、移動距離がわかるのだ。たとえば鎌
倉から北緯１度ぶんだけ北へ行けば、水戸、足利、
高崎で、２度北なら郡山、柏崎だ。遠征の記録が、
武器の柄に刻み込まれていくのだ。

　ところで、鎌倉で鎌と言ったら、藤原鎌足の事。
参考：9.セキサンガヤツ

故郷の鹿島神宮から都に上る時に、鎌倉で悪夢を
見て、八幡宮の裏山に鎌を埋めたと言う藤原鎌足。

「行商の金物屋じゃああるまいし、なんで鎌を携
帯してたの」と、大正時代の鎌倉案内の本では、
この伝承を無視しているが、大正の頃だったら、
「携帯する鎌」があったことは知っていたはずな
のだ。よく時代劇に出てくる場面の魔除けの火打。
火打石を鉄片に当てて火花を出す、その鉄片を江
戸では火打鎌と言ったのだそうだ。そして火打鎌
は、古墳の遺物として発掘されている。古いのだ。

　しかし古代の火起こしの神事をTVで見た事があ
るのだけれど、神主がやっていたのは弓の弦と板
で擦る発火方法だった。なぜならこの火打石と鉄
片を使う方法は、北方騎馬民族から伝来したもの
らしいのだ。
参考：忘れ去られた火打ちの技

「古事記」にあるヤマトタケルの逸話、敵に四方
から火を放たれた時に、燧袋から火打石と火打鎌
をとり出して、火を付けて近くの草を焼き払い、
難を逃れたと言うあの話は、もしかして、最新の
テクノロジー発火装置のお披露目だったのかもし
れない。さらに言えば、ヤマトタケルはヌナカワ
ヒメに求婚するのだけれど、沼川姫のいる糸魚川
はめのうの産地で、出雲の鉄と越の硬玉が出会う
のは火打鎌と火打石そのままだ。

　脱線してしまったけれど、つまり、鎌足が埋め
たのは、火打鎌だったのかもしれない。それなら
悪い夢を見たときのおまじないとしては、適当だ
ったと思うのだ。

　鎌倉は馬上から弓を射る武士の作った都市。
　鉄で武器を作り、星を祭って長距離移動をする
武士の都市。そして東国の星の文化は、もしかし
てとても古い日本の姿を残しているのかもしれな
いと、阿智神社の見学から６ヶ月たって、思って
いる。
     
　
　 ＊＊＊亀子＊＊＊
（31 Jul.2007 - 6 Jun.2012)