鎌倉、まぼろしの風景。177

　214度（南南西）の方向にオリオン座の三ツ星が横一列になって沈むのは、紀元前8000年の頃である。
　ある地点Aから、214度の方向に目立つ山B(富士山や筑波山)が見えると、毎日、三ツ星はその山に降りる様に見える。
　A地点は紀元前8000年の頃に、意味の有る場所であった。つまり、縄文時代の集落であると考える。
B富士山ーーーーーーーA山梨県都留市金井
B鎌倉市城廻ーーーーーA横浜市栄区金井
B茨城県筑波山ーーーーA茨城県笠間市石井
B青森県岩木山ーーーーA青森県五所川原市
B神奈川県丹沢山ーーーA東京都八王子市
B神奈川県大山ーーーーA東京都町田市小山町田端環状積石遺構

　縄文の集落Aとそこから見える山Bを結ぶ214度の線を、カナイラインと呼ぶことにする。
　縄文遺跡で最も有名な場所の一つ、大湯環状列石について、このラインをあてはめてみた。
　★十和田湖の南の秋田県鹿角市に有る大湯環状列石をA地点とするとカナイラインは森吉山の山頂を通る。森吉山は1454m。別名が秋田山。秋田県北秋田市。ここがB山だ。

　現在、オリオン座の三ツ星は真西に沈む。カナイラインの頃から56度も西に移動しているのだ。だから214度という線が何を示していたのかは忘れられてしまったのだろう。
　なぜ縄文遺跡がそこにあるのか、それは紀元前8000年の頃の星空の景観から来る設計なのだと思う。オリオン座の三ツ星が降りてくる山を愛でる設計なのだと思うのだ。

　214度というのは、流れる時間のある一時期でしかない。古い時代なら214より数が小さく、南（180度）に近くなる。新しい時代なら数値は大きくなる。現在は270度だ。三ツ星は真西に沈む。
　214度に注目したのは、都留市の金井ではその位置に富士山があったからだ。縄文時代にここで富士山の真上に星が降りてくるのを眺めていた人が居た、そう思ったからだ。

小山田氏館跡の用津院から見た富士山　　右側
山梨県都留市金井
　つまり、都留市の金井ができた同じ時代の町を探していることになる。
　214度と言う目安が決まると、話が早い。カナイラインを基準にして、縄文の風景をさらに探してみた。

　★神奈川県厚木市に荻野中山陣屋跡がある。1867年（慶應３）に薩摩藩浪士によってこの陣屋が焼打ちされたことから、鳥羽伏見の戦、江戸幕府の滅亡へと時代が動いていった。
参照：厚木の大名　荻野山中陣屋焼討事件平本元一　著
　その陣屋跡に中山稲荷がある。同じ名の稲荷が北鎌倉にあって、厚木と鎌倉の関係を考えさせる。
　陣屋跡の東側に、金鋳神社がある。金鋳は「かない」と読む。北に山を背負い、川は東で中津川に合流し、相模川になっていく。その金鋳神社からカナイラインをひく。弘法山235mと権現山244mの東に、三ツ星は降りていく。接近した山頂がギザギザで、水平線に描かれた目盛りの様だ。ラインが逸れているのは観測していた時代が新しいからなのだろうか。

　★神奈川県平塚市に金目観音（かなめかんのん）がある。坂東三十三カ所観音霊場第七番札所の天台宗光明寺である。
　この金目という字名を新編相模風土記稿には「かなひ」と書いてある。神奈川県二宮町にある江戸時代の道標には「左かないみち」と彫られている。
　この地域も、北に山を背負い、金目川が南にあって、東側でより大きい花水川に合流する。都留市や横浜市栄区金井と、同じ地形をしている。A地点であると思うのだ。だけどラインをひいても、B山が無い。カナイラインは地図の上を虚しく走る。
　★小田急線鶴川駅の西側に金井という地名がある。東京都町田市金井町だ。
　ここに（通称）代官屋敷があって、非公開の文化財であるそうだ。山の岬の上にあって、中世の館を思わせる。都留市金井の小山田氏館跡と似ている。周辺には縄文遺跡がいくつかあり、横穴古墳群もある。この金井町をA地点として、カナイラインを引いてみる。しかし、ここもB山がみつからない。
　だけどなぜか、B山に当らないままに、平塚市金目の上を通るのだ。不思議だ。

　★神奈川県鎌倉市から出土した最も古い遺跡、それは鎌倉市大船にある常楽寺の山だ。
参照：108.常楽寺　無熱池の伝説
　粟船山の旧石器時代の遺跡である。１万�２万年以上前に人が住んでいたのだ。ここは縄文、弥生の複合遺跡でもあるそうだ。21世紀の今も静かな住宅地である。
　常楽寺の位置に立てば、北は山で、南に開けている。川は暗渠になったけれど、西側で小袋谷川に合流し、さらに柏尾川に流れる。この常楽寺をA地点としてカナイラインをひく。
　B山は鎌倉市小袋谷の亀の子山だ。標高30m。山というより岡だけれど、常楽寺から600mほど離れたこの山に、縄文の三ツ星が降りていたのだ。

　カナイラインが結ぶB山と観測地A。あてはまる場所は関東以北に沢山あって、きっとその地域の古い伝承があるのだと思う。昔から人が住んでいた場所には誇り高い物語がきっとあると思うのだ。

追記１：
　地図にカナイラインを引いていくと、道路や鉄道がカナイラインに平行に走っていることに気づく。不思議だ。
　 174.南西214度の縄文風景（金井から星を見る）では、北海道の富良野市の例をあげた。芦別岳へ向かうカナイラインに平行に道路と富良野線があった。
　そのほかに、岩木山ー五所川原ラインに平行に、奥羽本線がある。
　町田市金井ー平塚市金目ラインに平行に、小田急線がある。相模大野駅から星谷寺までの線路だ。
　そして、相模原市の道路！
　相模原市は1939年から1945年まで、軍都計画という開発で軍需施設がたくさん作られた町だ。
参照：31.御嶽神社の謎
　空爆の目標にされて、不幸にも町は焦土になった。戦後、駅の北側は米軍施設になる。相模原はアメリカの住宅街の様な整然と設計された街路を持つ町に生まれ変わった。アメリカ車の大きなオープンカーが似合いそうな道路なのだ。
　その道がカナイラインに平行に作られている。興味深いと思う。
　都市設計をする人は、相模原の北を走る大山ー町田市小山町田端環状積石遺構ラインを知っていたのだろうか。今となっては意味を持たないこのラインに平行に道路を造ったのはなぜだろう。
　つまり、それは、ここに旧道が残っていて、それがカナイラインに平行だったからだ、と思う。
　町がどちらを向いているか、どこに視線が向く様に集落が作られているか、そういう微かに残る昔の人の作為を感じ取って、家や町を設計する、それがかつての陰陽師や風水師の仕事だっただろうと思う。その名残が、現代の相模原の道路に見られるのなら、興味深いと思う。

追記２：
　北海道の稚内（わっかない）という地名は、アイヌ語のヤムワッカナイ（冷たい水の沢）からきているそうだ。真駒内（まこまない）、苫小牧（とまこまい）のナイという音節はみな、小さい川、沢、なのだそうだ。
　金井も金鋳も、カナイという音にアイヌ語のナイ、沢という意味が含まれているのではないか。カナイはみな小さい川の北にあって、東か西で大きい川に合流している。大きい川は氾濫したら恐ろしい被害がでる。でも小さい川なら逃げることができそうだ。カナイは人が住むのに適した場所だから、有史以前から人が住んでいたのだろう。
　そうすると、沖縄の伝承、南東の海の向こうの楽園といわれる伝説のニライカナイは、金井、だったということか。
　北に山があって冬の風を防ぎ、日当りが良く南が開けて沢があり、東か西の大きな川に合流している。大きな川には魚が沢山いて、大きな船が行き来している。そんなニライカナイだったら、それはたしかに理想郷だと思う。その名を付けた「カナイ」という地が、各地に残る。古い記憶を伝承してきた私達を、誇りに思っても良いなあと、思った。