８世紀後半にできた万葉集には鎌倉と言う地名
が詠み込まれた歌が載っている。
　たきぎこる鎌倉山のこだる木を、
　松と汝が言はば、恋ひつつやあらむ

1685年にできた新編鎌倉志の巻之一の鎌倉大意に
は、歌に鎌倉山の松と読み続くること、鎌を埋む
所、松岡なればなり。と、鎌足が鎌を埋めたのが
大倉の松岡だったと書いている。

　源頼朝は由比ケ浜にあった鶴岡八幡宮を今の位
置に移した時に、大臣山に以前からあった明神を
丸山稲荷として移築し、大臣山の松岡に八幡宮を
勧請して、松岡八幡宮(上宮)と鶴岡八幡宮(下宮)
の二つの宮を鶴岡八幡宮と呼ぶようになった。
　江戸時代に縁切り寺として東慶寺が有名になる
と、鎌倉は松ガ岡に、松ガ岡は東慶寺のことにな
っていった。

　松が岡に鎌を埋めた鎌足は、藤原氏の始祖。藤
原氏は鹿島神宮から神様と鹿を持って来て、春日
大社を作り氏神様とした。春日大社には影向の松
という大きな松の木があって、この下に神が翁の
姿で出現したと言う。後に能舞台の背景の鏡板に
はこの春日大社の松が描かれて、老松と呼ばれる
様になる。

　宇多天皇に重用された菅原道真は、903年に太
宰府で亡くなった。讒言をした藤原時平ほか、た
くさんの人に祟り、雷神になったと言われている。
道真の家臣の島田忠臣翁が道真ゆかりの地の右近
の馬場に松の種をたくさん蒔いた。その松が芽生
える頃に天神となった道真のお告げが下る。
「松が生えた所に私はこれから住もうと思う」
それでその松の生えた右近の馬場に、北野天神が
できたのだそうだ。神紋は松なのだそうだ。

　藤原さんの側から見れば、氏神の松に道真さん
が乗っかってきたことになる。だから天満宮は梅
というキャンペーンがそれから始まったのだろう。
　こちふかばにほひおこせよ梅の花　
　あるじなしとて春をわするな

　能の演目に老松という目出度い曲があって、老
人の松と天女の紅梅が舞う。道真由来の曲なのだ
そうだ。横浜の能楽堂は旧加賀藩主前田斉泰邸に
あった能舞台だそうで、前田家の家紋の梅が老松
に描き加えられているのだそうだ。名古屋の能舞
台では、老松ではなく若い芽生えの松がたくさん
描かれているそうで、どちらも天神縁起を読んで
から見ると、菅原道真公の前で神楽を演じる風情
になる。

　宇多天皇とは、一度臣下に下っていて、源氏の
名を名乗っていた。それが勢力抗争の間で、天皇
になった。「源氏」でも天皇になれる前例を作っ
た人なのだ。源氏の希望の星、スーパースターだ。
だから宇多天皇のかわりに、スケープゴートにな
った道真を、源氏は大切にしている。天神さまは
八幡宮と同じに、各地にたくさん残っている。そ
れは源氏の徳川が作って守ったからなのだろう。
源頼朝も荏柄天神社を大事にしたらしい。

　徳川光圀が編纂をした「新編鎌倉志」の最初、
鎌倉大意は、鎌倉という漢字と松の字について、
「理これ多し」と書いている。鎌は金を兼ねる、
倉は人一君だから、「武備兵将の居なる者也」。
「松は木公と書く」なんだろう。鎌倉はわかった。
木公は解らない。これを更に分解して、「十八公」
として、十八年経ったら明らかになる、と読ませ
るのだそうだ。それでもまだ私にはわからない。
いつから18年なのか。何が明らかになるのか。

　とにかく鎌倉と松は因縁も深くて、松ガ岡とは
鎌倉のことなのだ。

　そして、松岡七友が登場する。
水戸学の祖、徳川光圀の後50年後に現れた七人だ。
寺子屋の教科書を出版し、全天星図を出版し、地
図を作り、紀行文を書いた。彼ら、水戸の頭脳集
団を松岡七賢または松岡七友という。彼らは鎌倉
の七人なのだと、そう私は思っているのだ。

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　 ＊＊＊亀子＊＊＊（15 Sep.2007-18 May 2012)