鎌倉の山道や街道の辻あるいは神社の境内には、
いくつかの石碑が残っている。三猿のついた庚申
塔や江の島道と書いた道標、馬頭観音と書いてあ
ったり青面金剛だったり。浅間神社とか御嶽大神、
猿田彦大神や少彦名命。安倍晴明、地主神。その
なかに、北斗星尊と大書してある板碑がある。

　北斗七星は北極星の周りを夜の間に半周して、
日没後に見え始める姿は季節ごとに変わる。ひし
ゃくがひっくりかえって水が入ってない形だった
り、上向きで水がいっぱい入る形だったり。それ
を見て農家の人は、田植えや刈り取りの時を測る
のだそうだ。星も太陽の様にカレンダーなのだ。

　北斗七星が信仰の対象になるのは、中国の星占
いが日本にやってきた遣唐使の時代からで、太一
信仰（北辰信仰) と言うのだそうだ。それが妙見
菩薩の神仏習合になって、日本中に広まる。妙見
とは、よく見通せること、遠くまで見える視力の
事だそうだ。

　ところで、北極星は北極で見ると頭上に見える。
高度90°だ。赤道で見ると水平線上に見える。高
度０°。だから北緯３５°の京都で見れば、北極
星の高度は35°。それで北緯33°の阿蘇山の北か
ら京都に移動すると、北極星の高度は２°ほど高
く上がっている。北極星を見るとその場所の北緯
がわかるのだ。GPSだ。

　だけど星の高度を精密に測るのは難しい。夜空
に目盛りが描いてあればいいのに。そこで北斗七
星が、その目盛りになって活躍する。
　北極星と地平線の間に北斗七星が横たわってい
るとき、北緯35°の京都ではひしゃくの柄の最後
の星、七番目のベネトナシュ（破軍）は地平線に
沈んでいて、三番目の星フェクダ（禄存）も見え
ない。それが諏訪湖のあたりに北上すると見える
様になり、青森の三沢まで行くとすべての星が地
平線の上に上がる。
　つまり北緯28°15′奄美大島以南では上向きの
北斗七星はすべて沈んでしまい、北緯40°41′青
森以北では沈まない星座になる。だから鎌倉から
はるばる陸奥へ行くと、北の星、北斗七星が大き
く立ち上がって迎えてくれるのだ。それはふるさ
とから遠く離れたことを実感する瞬間でもあった
だろう。そうして青森から北海道に渡るときには、
北斗七星の目盛り、GPSは使えなくなり、ただ北
極星が高々と天に上がって行く。

　中世鎌倉時代にはたくさんの武士や兵士が合戦
の為に移動している。彼らは北極星を見て、北の
果てと南の果ての距離感を掴んだだろう。
　北極星が天頂に上がった所、北極星が水平線に
沈む所。その間にある日本の国土の大きさを実感
として掴んだと思う。それは現代人が教育で教え
込まれた地球と日本の大きさの空間概念よりも、
もっと体感として得られた広さであったと思う。
そしてやがてずっと後に、沖縄と北海道に、憧れ
の別天地を見いだすのだと思った。　
     
　

　
　 ＊＊＊亀子＊＊＊
（11 Jul.2007 - 6 Jun.2012)