坂東平氏の祖と言われる平良文の子孫を名乗
る人たちは七曜紋をつけるのだそうだ。
参照：53.坂東平氏の大三角形と星

　だったら八角形の九曜紋も、地図上のどこか
に在るに違いない。というか、あってほしいと
期待したのだった。八角形は長方形を十時に重
ねるとできる。スイス国旗にあるような十字の
外側のかどとかどを結ぶと、正八角形になる。
中心も入れて９つのポイントができる。これが
九曜紋だ。

　ここ数ヶ月、地図上に線を引いて楽しんでい
る私には、気になっている長方形があった。
　鎌倉市岡本にある大船観音の真西に、玉縄城
の諏訪壇があって、真南には山崎の中央公園の
手前に在る、稲荷神社がある。直角だ。
　玉縄城の真南には泉光寺があって、ここにな
んとなく南側がゆるい長方形が描けるのだ。
　正確に言うと、観音から真南に線を引くと、
稲荷神社を乗り越え、その南にある山頂に当た
る。この山頂の真西が泉光寺であって、きれい
な長方形になる。

でもその意味がわからなかった。長方形って何
だろう、と。だから前回で伊豆を除く関東七州
が一つの七曜紋に連なった時に、すぐ思いつい
たのがこの長方形だった。

　その前に、大船観音について語ってみたい。
宗教法人大船観音寺は第二次世界大戦で亡くな
った人々を追悼するお寺で、境内には原爆被災
祈念碑があり、広島から運んで来た平和の灯が
燃えている。
　だけどこの観音の設立計画が持ち上がったの
は昭和４年だそうだ。戦前だ。円覚寺と同じく
まずここに建設する事が決まっていて、その後
に起こった戦争の犠牲者を祀っているのだ。

　なぜここに大船観音が出来たのか。それはこ
の場所が消えてしまう危機にあったからだと思
う。このポイントを守る為に観音が出来たのだ。
　では、ここは何か。それは拝観料を払って門
から一歩入らなければわからない。
　素晴らしい景色は門の前でも十分に見る事が
出来る。六国見山と台山。青木神社の山と岩瀬
の北山。広がる景色に背を向けて、門を入り、
西を見る。岡本の山頂と玉縄城趾の山頂が、わ
ずかにずれていて、角度で言えば３�ｰ４度くら
いだろうか、その山頂の隙間から、真白い富士
山頂がちょびっと顔をのぞかせている。
　隙間からちょっと見える富士山。これは奇跡
な場所なのだ。

　観音の山を下りて柏尾川を渡れば、富士見町
や富士塚へ行くまでもなく、大船からは巨大な
富士が見えるのに。裾野をひく富士ではなく、
山頂だけのちっちゃな富士山に、何の意味があ
るのか。わからなかった。でも赤久縄山に出会
って、それがわかった。
参照：53.坂東平氏の大三角形と星

　群馬県は山国で金峰山2599m や甲武信岳2475m
などの秩父山地が南にそびえている。そのなか
で1522m の赤久縄山が、鎌倉の由比ケ浜と筑波
山を結んで巨大な正三角形を作っていた。
　赤久縄山の山頂からは富士山が見えるのだ。
ちょっとだけ。それは山々をすり抜けて、84km
を越えてできた隙間の空間、奇跡の視界だ。

　富士山は遠く見えないけれど、赤久縄山に登
れば見える。その、見え方と同じなのだ。
　だからこの観音の山を群馬山と呼びたい。
あるいは赤久縄山と呼んでしまいたい。と思う。
鎌倉にやってきた人が、古郷を偲ぶ場であった
のだ。

　で、大船観音と玉縄城趾を結ぶと、自動的に
八角形ができあがった。 135度の角度で観音ー
玉縄ラインと同じ距離を引いて一周すると八角
形だ。中心を入れて九つのポイントができた。
そのポイントを中心にして、直径 1250mの円を
描くと、九曜紋になった。これは相馬氏の紋だ
そうだ。そして相馬小次郎とは平将門の名でも
ある。
　鎌倉市扇が谷の相馬祇園社の子之神社にある
九曜紋は、こんなに大きく大船の地に描かれて
いたのだった。
参照：42.子の神社

　これをデザインした人は誰なのか、相変わら
ずわからない。いつの時代かも解らない。
　でも、徳川将軍は知っていたのではないかと
思う。それは、４番目のポイント、藤沢市小塚
について。新編相模国風土記稿に、「村内古塚
あり、故に村名は起れるなるべし」とあって、
「塚　辺に古松あり法散松と唱ふ」としか語ら
ないからだ。この本は、解らなかったら解らな
いと書く本なのだ。仮説だって載せるのだ。
語らなすぎる、と思った。すっとぼけた、のだ。
　将門関連の塚だった、としたら、と、思う。

九つのポイントの最大の謎は、中心地だ。頼朝
の隠し湯の近く。昭和の初めは温泉宿で賑わっ
たというその辺りは、江戸時代には何だったの
だろう。その前は、何だったのか。今は工場の
敷地内で入る事も出来ず、謎のまま、中心であ
り続けている。

１）大船観音
２）玉縄城趾
３）村岡城趾西側
４）藤沢市小塚の病院
５）笛田二丁目のテニスコート
６）梶原の山。歴代北条氏の屋敷跡
７）北鎌倉J学園のグラウンド南山頂
８）大船。木曾免の南。
中心地９）富士塚の西。M電機鎌倉製作所内。

追記：観音の山から小さな富士が見えたから、
群馬と鎌倉の人の繋がりを想像する事が出来た。
　植木小学校の校庭やその向かいに巨大なマン
ションが建ったなら、富士山を隠していたのな
ら、気づかなかった。
　昔の人々が見た同じ景観が残っていたからだ。
数百年経っても、古郷を思った昔の人と同じ思
いにひたる事が出来る。それはとても幸福な事
だと思う。

　大船と藤沢、栄区に広がる景観には、まだ公
にされていない歴史的意味のある何かがあると
思う。
　その一つ、たとえば小袋谷の亀甲山は、明治
15年の地形図で見ると、見事な上円下方墳の形
をしている。その向きは玉縄城趾の方を向く。
城ができる前を考えさせられるデザインだ。
その玉縄ー亀甲ラインを分断して、７階建ての
マンションが今建とうとしている。図書館で見
た幕末頃の古地図に描かれたその場所には泉と
記されていて、以前は膨大な水量を誇る噴出泉
があった。そんな昔の景色は失われていく。
　忘れられた景色を発掘することも、できなく
なってしまうのだろうか。
     

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　 ＊＊＊亀子＊＊＊（26 Oct.2007-18 May 2012)