鎌倉の七里ガ浜の西に、こゆるぎ岬があって、
そのあたりを腰越という。1185年３月に壇ノ浦
で平家を滅ぼした源義経は、５月に弁慶と鎌倉
まで来た。しかし兄の頼朝は鎌倉に入る事を許
さず、腰越の満福寺（744年）まで戻されてし
まう。ここで有名な腰越状を書くのだが、つい
に鎌倉に入る事なく、義経は平泉へと落ちのび
ていく。

　その満福寺の周辺には５つの寺が重なる様に
してあって、海上の江の島の辺津宮辺りから眺
めると、満福寺を入れた６つの寺が、見事に昴
の星形を成す。多分お寺しか灯りがともらなか
った時代には、美しい風景だっただろう。

　江の島から見て、天の星すばるが地平線ぎり
ぎりに北東の空にあがるのは、７月なら夜中の
2時頃、10月なら夜８時、11月なら夕方６時頃
だ。そのとき北西には水をいっぱい入れた北斗
七星がこれも低く横たわっている。

　江の島から見て、北東の地上にすばるがある
のなら、北斗もあるに違いない。星座の下に、
横たわる地上の北斗を探してみる。

　満福寺の西の法源寺から数えてみよう。正面
の龍口寺（1337年）、北側の常立寺、本蓮寺（
595年）。この４寺で北斗のますが出来上がる。
密蔵寺（1306年）と泉蔵寺で柄を作る。空にあ
る北斗と同じ形だ。美しい。

　北斗のますを作る法源寺、常立寺と本蓮寺。
それにすばるを作る勧行寺（1303年）、本成寺
（1309年）、妙典寺（1312年）、東漸寺（1352
年）と本龍寺（1302年）。この８寺を輪番八か
寺というのだそうだ。日蓮宗の霊場、龍口寺を
順番に守るために決められた制度で、どの寺も
龍口山と名乗り、明治19年（1886年）に廃止さ
れるまで、550年も続いた制度なのだそうだ。
　そう、満福寺を加えて右にすばる６星、龍口
寺を加えて左に北斗のます４星になるのだ。こ
の景観を守って、そんなに長い間、寺の団結が
崩れなかったのだ。これはちょっとすごい事か
もしれない。というより、海上を夕べに通る船
は、陸地に煌めく北斗と昴に驚愕するに違いな
い。さすが北條さんの鎌倉、って、将軍の株も
上がっただろう。横浜のランドマークの夜景み
たいに、これも誇らしい都市の文化だ。

　やっぱり鎌倉は星の都。北極星を掲げた東国
の都なんだなあと、星座のある地図を見てしみ
じみ思う。

で、旧鎌倉はどうなの、って、探してみると、
趣向を凝らしてこれもちゃんと出来ていたのだ
った。

追記：北斗の柄が密蔵寺と泉蔵寺しかない。
もう一つ寺があるはずだ。そこで新編相模国風
土記稿を読んでみた。それで地蔵堂がみつかっ
た。弘安５年（1282年）の３月から７月まで一
遍上人がここに居たのだそうだ。上町という場
所がどこだか分からないけれど、きっと北斗の
柄になっているに違いない。

　

     
　
　 ＊＊＊亀子＊＊＊
（1 Aug.2007 - 6Jun. 2012)