鎌倉、まぼろしの風景。226

　神奈川県藤沢市鵠沼神明に鎮座する皇大神宮(通称烏森神社)には、石楯尾神社（いわだておのじんじゃ）が合祀されているそうだ。
「『鵠沼を巡る千一話』渡部瞭　著」によれば、後から御伊勢さんがやって来て、初めにあった石楯尾神社が末社になってしまったらしい。
　石楯尾神社とはあまり聞かない神社だけれど、神奈川県に7社もあるそうだ。藤沢の通称烏森神社も、その一つなのだ。

1. 石楯尾神社神奈川県相模原市緑区佐野川3448
2. 石楯尾神社神奈川県相模原市緑区名倉2524
3. 石楯尾神社神奈川県相模原市南区磯部字中峯2132
4. 諏訪神社神奈川県大和市下鶴間2555
5. 諏訪神社神奈川県座間市入谷1-1568
6. 諏訪神社神奈川県相模原市緑区大島594
7. 石楯尾神社神奈川県藤沢市鵠沼神明2-1-5

　927年に作られた延喜式神名帳に載っている神社を式内社と呼んで、古く格式のある神社として尊ばれているのだけれど、この石楯尾神社も式内社なのだ。
　927年の時点で、すでに中央にまで知られた神社だったということ。でもそれがどこの神社かというと、相模原市の名倉にある石楯尾神社である、らしい。名倉とは旧藤野町と言った方が通りがいいかもしれない。

　石楯尾神社の社伝を写すと。
　「第12代景行天皇の庚戊40年、日本武尊東征の砌、持ち来った天磐楯 (あまのいわたて）を東国鎮護の為此処に鎮め神武天皇を祀ったのが始まりである。石村石楯は高座郡の県主で当地の住人であった。第47代淳仁天皇の764(天平宝字8)年、先の太政大臣藤原恵美押勝反逆の折、貢の為上京中で押勝の首をとり乱を鎮めた功により高座、大住、鮎川、多摩、都留の五郡を賜ったといわれ、石楯尾神社の保護者であった。」

　というわけで、天磐盾が埋まっているから石楯尾神社、なのだそうだ。私的には「淳仁天皇の764(天平宝字8)年」というところが気になっている。逗子市池子の星が谷の、彦星線の時代である。
　神奈川県の地図を広げて、7つの神社を書き入れて見た。iPadのGoogleMAPに住所をいれて神社の位置を検索し、そこにピンを立てる。それからGoogleMAPの縮尺を神奈川県地図と同じぐらいにする。ピンの位置を地図に書き入れる。そういう作業を七回繰り返してできた地図をみる。
　残念ながら7つの神社の位置は、星座には見えなかった。でも、気がつくことがある。

　1と2の神社をつなぐと約170度になる。
　3と5の神社をつなぐと約170度になる。
　7の、藤沢の神社と、藤沢海岸にある江ノ島の島内の江島神社をつなぐ。これも約170度になる。
　これらは偶然だろうか。

　石村石楯さんが765年にこの辺りを領地にした頃、つまり奈良時代の星空を「天文学3D+」というアプリで再現して見た。170度のあたりに、低くカノープスが上がって来る。全天で太陽を除いて一番明るく輝くシリウス、その次に明るいのがカノープスだ。中国の星座では南極老人という星だ。見ることができれば、寿命が伸びるという星。
参照: 「星の神話・伝説集成」野尻抱影著
　今でも天文フアンの人たちは南極老人星を見るのを楽しんでいる。
「カノープス、もう見ましたか?」と。
　170度のあたりに高度1度くらいに昇って、180度の南に南中する高度は3度くらい。あまりに低いので、この巨星を見る時間はわずかしかない。それでも幸福をもたらす星は、寿老人や福禄寿と呼ばれて、七福神の仲間入りをしている。
　その南極老人星が昇る方向に向いて170度の線の先に、次の石楯尾神社の灯明が見える。
　そんなデザインなのではと、思う。南極老人星を見るために二つの石楯尾神社を設置しているのだ。

　１の佐野川から見れば、２の名倉の上から巨星が登ってくるのである。
　そういえば、名倉の石楯尾神社には「烏帽子岩」の巨石信仰があるのだそうだ。
　池子の星ガ谷の直線道の先に福富稲荷の巨岩があるのと同じである。

　ウィキペディアによれば、地球の歳差運動によって、12000年後には南極老人星は南極星になるのだそうだ。北極星の反対側にある南極星。天の南極にあって動かない様に見える星。
　南極老人と名付けた中国の天文学者はこのことを知っていたのだろうか。
　12000年後と言えば、こと座のベガ、織姫星と同じお話だ、と思いついた。
　織姫星は今から14000年前には北極星であった星だ。天の北極にあって動かない星だったのだ。そして12000年後には、また北極星になるはずの星である。
　とすれば、14000年前の星空は、北極星に織姫星。南極星に南極老人星。
　二つの巨星が北半球と南半球に輝いていた時代だったのだ。縄文時代に。
　縄文人は調和のとれた空を見ていたのだ。それが1000年が過ぎると、星図は少しづつゆがんでくる。
　そうして、厳密な星座観察を続けるほど、星と景観のズレは大きく、耐え難くなって行く。
　北極星は天の皇帝の椅子を追われて天を回り出し、南極星もずれて行ったのだ。
　栄えた都を突然に立ち去ってしまう。そんな事態は、星空と理想の星空が合わないことだったのではと、思ってしまう。

　ところで、南極老人星の上空には、おおいぬ座が輝いている。その尾にあたる所に「への字」に並ぶ3つの星を、鞍掛星と言うそうだ。鞍掛星の斜め右下に南極老人星がある。これを結ぶと盾の形になると思うのだが。いかがだろうか。星の楯、石楯（いわだて）と連想してみた。石楯とは岩立、立石のことかもしれない。
　名倉の石楯尾神社には、烏帽子岩という巨石信仰がある。
　それと茅ヶ崎の烏帽子岩は、同じなのか。無関係か。星を巡るお話は尽きない。
　
追記：
ひもろぎ逍遥というブログを知った。福岡の神社を丁寧に上げていて、星を祀ることを書いている。素晴らしい。特に福岡県筑紫郡那珂川町に暦を代々の家業として生まれた真鍋大覚について詳しく紹介していた。縄文杉の年代測定者、地震雲の研究者として著名だそうだ。知らなかった。
彼の著作から星の和名を書き出した記事を２chで見つけた。それによると、白鳥座のデネブは「みかのほし　朱卵」帆座のアルスハイル　アルワズンは「ひかみのほし　氷上」南十字は「はむろのほし　葉室」
そして、カノープスは「すはのほし　諏訪」だ。
神奈川県に石楯尾神社は７つある。そのうちの３社は諏訪神社になって存続している。なぜ「諏訪神社」なのか、これでわかった。カノープスは諏訪星なのだ。
上記の諏訪神社３社をGoogleマップで拡大してみた。
4の大和市下鶴間の諏訪神社。参道は285度。これに直交する道を書き加えると１９５度。カノープスが沈む方角だ。現在も紀元１年も。それ以前はアプリで再現できない。そして南の展望が良い神社だ。
5の座間市入間の諏訪神社。参道は255度。直交する道を書き加えると165度。カノープスが登って来る方位。米軍キャンプ座間の台地の南端で南の展望が良い。
6の相模原市緑区大島の諏訪神社。八坂社と一緒の境内で八坂社の参道は105度。これに直交する道は195度。カノープスが沈む方向だ。ここも相模川の北にあり、広い河原を南にして展望が良い。
南中高度２度のカノープスを、かつては見ることができたのかはわからないけれど、見ようと工夫して景観を選び取っていることが想像される。
では諏訪大社は？
長野県諏訪郡下諏訪町の下社は、諏訪湖の北にあって南の見晴らしは十分だった。ここならカノープスも見えただろう。上社は南に山を背負って、この神社の灯明の上にカノープスが上がるのを、北側の遠くの地点から見ていたのだろうと思わせた。上諏訪駅前の国道20号線に立って、ストリートビューを見ると、国道の先に杖突峠の山が低く見えた。山上に星が乗ると高度２度、の様な気がした。市役所前の県道50号線から見ても、南の山は低く見える。ここに上社の灯明が見えて、山上からカノープスが一瞬現れる、のを想像した。

諏訪神社は南極老人星、カノープスの神社だ。もちろん石楯尾神社もそうだ。神社は星神を祭る。そう仮定して見直すと、面白いことになる、かもしれない。

「神社の参道に直交する道を書き加える」事については、別項を立てて。阿蘇神社と鶴岡八幡宮の景観についての物語りになる。

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