鎌倉、まぼろしの風景。219

鎌倉市台と小袋谷の境を流れる小袋谷川に、せいしゅく橋がかかっている。
勢蹙橋(せいしゅくばし）は、源頼朝が関東を制覇して鎌倉入りをする時に
ここで一晩泊まって隊列を整えた場所だ。
頼朝ゆかりの場所であることを隠したい時代には、水堰橋（すいせきばし）と呼ばれていた。
頼朝が天皇に対する逆臣であった時代を語る人は少ない。
わずか67年前の事だ。
鎌倉時代を研究することすら、自由にできなかった。
そんな時代を私達はもう忘れようとしているのだ。
参照: 156.せいしく橋の伝説

その「せいしゅく橋」には「せいしくはし」と彫られた石碑が立っている。
この名前を残したいと、この土地の人は思ったのだろう。

せいしく、せいしゅく、とは、
星宿
ではなかったかと、昨日夫が語った。
鎌倉を研究しているたくさんの人達が、誰も本に書かなかった事を言ったのだ。
私も気がつかなかった。星宿図をいつも眺めていたのに。
言われてみれば「星宿橋」以外の名前を思いつかないほど、
この場所にぴったりの名前なのだ。
星宿とは中国の星図に描かれた星座のことだ。
そして星宿神と言えば、それは北斗七星を指す。
ここには星座に見立てる事ができる小袋谷川があり、
星を見るガイドになる直線道がある。
遥々と道と空を見渡す事ができる小高い台山もある。
ここは星宿橋だ。見つけた。
その思いがじわじわと心にしみてくる。
これは大変だ、という思いと。
「星月夜の鎌倉」は坂の下の「星の井」だけではなかったという思いと。
鎌倉の地図と星図を眺めて過ごしてきたここ数年の暮らしの中で、
こんな素敵な瞬間に、またもや出会った。
感謝を込めて、その意味を考えたい。

せいしく橋から続く直線道

せいしく橋から大船三郵便局まで続く直線道は、離れ山に突き当たり、迂回する。
離れ山は崩されて住宅地になっているけれど、この直線道の突き当たりだけは
富士見地蔵と共にかつての姿を偲ぶことができる。五叉路である。
その北西の離れ山から眺めて、南東の星を道の先に待つなら直線道の向きは162度だ。
あるいは逆に、台山から眺めて北西にある離れ山の向こうに星を見るなら、342度。
どちらだろうか。
もちろん、せいしく橋から続く道は、北斗七星を見る為の道だ。
北に視線を誘う道である。
星宿神とは北斗七星を言うのだから。
北斗のスプーンの先、ドゥーべという星が342度に来る。
星宿橋から続く直線道の先に北斗のドゥーベを眺める。
それはいつ頃の事だろう。

地図で星宿橋から続く直線道を眺める。離れ山に突き当たり、迂回する道。
その離れ山の富士見地蔵のそばに、梅田川があった。
暗渠から出て、ここから川が地平を流れている。

富士見地蔵前の梅田川

その形が、北斗七星、だった。
ドゥーべが342度に来た時の形。
直線道の延長の天に、北斗が上がった時の形に、梅田川が流れている。
ええッ!!

せいしゅく橋の地上７mから俯瞰　Googleアースとskitch

もう、これは偶然ではない。デザインされた意図的な川筋だ。
まっすぐ道の先を眺めると、天にある北斗七星と、地を流れる梅田川が同じ形に上下に揃う。
すごいなあと思う。
だけど、今まで見てきた北斗の形の川と、ちょっと違う。
北鎌倉の小袋谷川。逗子市沼間の田越川。横浜市栄区の鼬川。
それらは遠くから眺められるように、大きな北斗を形作っていた。
でも、ここの梅田川は、とても小さな北斗七星だ。

ひしゃくの形に曲がる梅田川

梅田川の北に、鎌倉市の公園があった。小袋谷子供の広場だ。
いつも子供達が野球やサッカーをしているこの公園があるから、
川筋が変えられたのではないか。
はじめの形が、ヒシャクの先端だけに、かろうじて残っている、のではないか。
そう思った。
それで川筋を大きく変えてみる。台山から見ても空の星座に負けないほど大きくした。
どうだろう。これで天と地に星座がそろうと思うのだ。

北斗の形の梅田川　Googleマップとskitchi
梅田川が暗渠にならずに、直線道の突き当たりから地上を流れる。
その事の意味を考えた。
それはつまり、ここの梅田川が北斗の形になっている事を、知っている人達がいる、という事だ。と、思った。
鎌倉市には「こども風土記」や「としよりのはなし」など、伝承を残す努力があるけれど、それでもまだ、書かれていない事があるのだろう。
北斗の形をした梅田川は、少し、小さくなって、今もある。
台山から眺めれば、天と地に、星座が揃うときがあるのだと、思った。
それで、梅田川が北斗になっている時、その時に何を教えたかったのか。
川筋のデザインから読み取る事は何なのか。まだ、わかっていない。

参照：216.扇湖山荘と星

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　リーフレット「星月夜の鎌倉と塔の辻」地湧社が出版されました。鎌倉市内の書店、ギャラリーやカフェでご覧ください。
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