鎌倉、まぼろしの風景。280

歴史的農業環境閲覧システムにSkitchで作図

　今は高層建築で見えなくなっているが、公園の南の山頂から天神山は見えていたはずだ。見事なとんがり山である。
　遺跡から南西214度の先に山がある。その例を並べて見る。これは意味のあることなのだと、語りたい。

　笠間中央公園遺跡ーーーー214度ーーーー天神山

　大湯環状列石 (秋田県鹿角市)ー214度ーー森吉山 1420m
　田端環状積石遺構(町田市)-214度ーーーー大山 1240m
　町田遺跡(仙台市太白区) ー214度ーーーー安達太良山1640m
　釜石環状列石(岩手県八幡平市) 214度ーー大松倉山 1380m
　忍路環状列石(小樽市) ーー214度ーーーー大黒山 700m
　阿久遺跡(長野県原村) ーー214度ーーーー三界山 1380m
　湯丹沢環状列石(岩手県滝沢市) 214度ーー女助山 580m
　音江環状列石(北海道深川市) 214度ーーー漁岳 1300m

　縄文時代の中期と後期の境の、紀元前2500年の星空を見る。
　南十字星が南中して、ゆっくりと南西214度に傾く。
　笠間中央公園遺跡から見ると、天神山の上に南十字星が傾いている。
　十文字が傾いて、まるでX印の旗が直立したように見える。
　その天神山に向けて天の川が流れ落ちている。左手の東側から南を通って、地面に落ちた天の川は地上の柏尾川とつながっている。川は笠間中央公園遺跡の西側を流れ、背後の北側を上にして、北東45度で天の川とつながっている。

StellariumにSkitchで作図

　美しい景色である。天の川が斜めに立ち上がっていて、地面に触れたところから、地上の川につながっている。

　この時、一番高く上がった天の川は、南東120度から150度にかけてである。その高度は50度になっている。天頂の90度に近い。150度の先には鎌倉最高峰の六国見山の頂上に重なる。
　空に大きな弧を描く天の川を山に例えると、東斜面の方向に東京湾がある。そして西側斜面の先に相模湾がある。
　すなわち120度から150度にかけて、天の川の分水嶺の先に三浦半島がすっぽりと入っている。
　千葉へ船で近道をするなら、観音崎や浦賀から出航すればいい。笠間中央公園遺跡から見ると、天の川の分水嶺の先に港がある。120度から150度の範囲に入ってズンズン進んで港に着く。地図がない時代に、方位で目的地を示す、そういう指標の一つが、星に導かれる行程である。こちらへ行けば東京湾、こちらへ行けば相模湾。対岸の千葉に渡るなら、中央のここ。

　これを大湯環状列石に当てはめてみる。

GoogleMapにSkitchで作図

　川は大湯川と米代川になる。大湯環状列石の西側を囲んでいる。
　天の川の頂上の南東150度と120度は、大森山と二ツ森山に挟まれた区域で、県道195号に従えば盛岡の平地に出ることができる。

　田端環状積石遺構に当てはめてみる。
　川は境川と大栗川になる。
　214度の先にある大山の上に南十字が降りて、天の川が境川につながる。150度と120度の向きに進めば鎌倉方面か横浜方面になる。その間は三浦半島だ。相模湾へ、千葉へ、東京湾への交差点だ。

　町田遺跡の場合。天の川は214度で名取川の支流につながる。北に川があるのかはわからなかった。暗渠になっているのだろうか。214度の向きに東北自動車道が重なっていた。見通しがいい平地に道ができる。その先の安達太良山はちょっと遠すぎるかもしれない。
　150度と120度の向きに名取駅や館腰駅がある。横浜市栄区に伝承の残る藤原実方さんのお墓がここにあった。東北の古くからの都市なのだろう。国指定の雷神山古墳もあって、これは東北最大規模なのだそうだ。
　平安時代、古墳時代に栄えた所は、縄文時代からの町ではなかったか。

　北海道の深川市にある音江環状列石。214度の向きに漁岳がある。石狩川が北から西を通って流れている。120度には十勝岳があり、冬至の日の出はここから上る。150度ではなく140度の方に富良野の盆地がある。国道38号が富良野に向かう。
　(富良野駅周辺の道路は214度に平行に作られている。根室本線さえも学田駅の北では214度に作られている。その視線の先に芦別岳 1726mがある。)

　北海道の深川市は北緯43度42分にあって、214度に傾く南十字星は上の二つしか見えない。それも地平線にある。見えにくいので指標にはならないと思われる。でも、南から北上した人達なら、まだ見えるぞ、と、思うかもしれない。鎌倉市の北緯は35度18秒で、随分違いがあるけれど、南十字星の高度が北海道では低くなるだけで、天の川の姿はあまり変わって見えない。214度で地上の川につながって、南東120度から150度で天の川の高さが最高になっている。

　南の風景も探してみた。
　熊本県阿蘇市の肥後一ノ宮、阿蘇神社から南西214度を見ると、烏帽子岳 1280mに至る。阿蘇五岳の最西端の山である。
　神社の周囲は農業用水路が細かく作られている。その中で阿蘇神社を丸く取り囲む水路があった。グーグルマップのストリートビューで「いしづかはし」を見つけた。そこに古志川と書いてあった。神社の北東を流れてくる川だ。
　阿蘇警察署の近くの「しんひがしたけかわはし」では、東岳川とあった。神社の南西214度を流れる川である。これらの川が昔からの位置を流れているのかは、わからない。でもこれが天の川につながる地上の川なのだろうと思う。
　烏帽子岳の上に南十字星がやって来ると、天の川は120度から150度を頂上として左右に流れ下る。その120度に祖母山 1700mがあった。冬至の日の出を迎える山である。150度には真弓岳 1080mがある。国道265号、国道325号、国道218号とつながって海に至る。
　阿蘇神社は北緯32度56分にあって、南十字星が高く上がっていた。そしてやはり、天の川の姿はあまり変わらないように見えた。

　山梨県都留市から見ると富士山は214度に見える。そこから始まった問い。214度の向きには何があるのか？が、8年を過ぎて再考に至った。

参照:
鎌倉、まぼろしの風景 174.南西214度の縄文風景(金井から星を見る)

　あの時は紀元前5000年を想定し、オリオンの三ツ星を見た。
　ここでは紀元前2500年に変えて南十字星を見つめている。
　拙著「織姫星と鎌倉」では、南十字星が半分沈んだ西暦500年前後の飛鳥、奈良、平安時代を想定した。南十字星が南中した時に氷上星がある位置が214度である。
　それは摩多羅神の絵図に描かれた星図であった。
　時代とともに214度に来る星は変わっていく。
　でも都留市では、富士山の上に来る星を見続けただろう。
　笠間中央公園遺跡に居た人々は、見事なとんがり山の天神山に来る星を見続けただろう。
　風景と一緒になった南西214度への視線は引き継がれたのだと思う。
　人々は風景の中に星を見て、時を知り、北緯を知り、国土の形を知っていたのだと思う。

　プラネタリウムのアプリは安価で、優秀になって、素人でも扱えるようになった。地方史はどんどんブログに書き出されて、いつでも読むことができる。何よりタブーに阻まれる事が少なくなった。風通しの良い時代が来たのだと、思いたい。

　
　